本会について
会長挨拶
⻑崎県建築鉄骨研究会 会⻑ 修行 稔
インターネットブラウザで「建築工事標準仕様書JASS」と検索すると様々な関連Webサイトが表示されます。これらの記事から,JASS とは建築工事標準仕様書の英語表記であるJapanese Architectural Standard Specification の頭文字であること,JASS には令和3 年(2021 年)3 月時点でJASS1(一般共通事項)からJASS27(乾式外装工事)まで,廃刊されたものも含んで27 の分野があること,JASS6 はその6 番目で鉄骨工事に関する標準仕様書であること,発行元は(一社)日本建築学会であり昭和28 年(1953年)11 月に初版が刊行され,以降断続的に改定がなされてきていることなどを知ることができます。
私の手元にあるJASS6 の最新版(平成30 年(2018 年)1 月第9 次改定第11 版)の「発刊時の序」には,先の大戦によって著しく停滞していた戦前の16 の標準仕様書の改定に日本建築学会が「材料施工規準委員会」を中心に総力を挙げて取り組み,昭和28年(1953 年)11 月についに全面的改定版の初版の発刊の日を迎えた経緯が記されており胸に迫るものがあります。
また,同書の「建築工事標準仕様書制定の趣旨と執筆方針」の項には,「刊行の目的はわが国で造られる建築物の品質の確保,使用材料,工法,構法の標準化に資することであり,法令で許容される水準を満足しつつ合理的・経済的な技術水準を示すことにある」旨の記述があります。本研究会に関係の深いJASS6 については,今や一般の建築鉄骨はほぼこれに準拠して造られていると言っても過言ではなく,その存在感は揺るぎないものになっています。
ただ,JASS6 は契約用仕様書であるため解説がなく,別冊として詳細な解説が「鉄骨工事技術指針 工場製作編」と「同 工事現場施工編」に分けて上梓されています。解説書が2 分冊になっている理由は「鉄骨工事における工場製作と工事現場施工という二面性およびそれらに従事する技術者の便宜を考慮」との記述が序文にあることで明らかです。すなわち鉄骨製作技術者と現場施工技術者の間には工事の円滑な流れを阻む隙間が存在することを示唆しています。
じつはこの種の隙間は設計図書を介して接触する設計者と鉄骨製作技術者の間にもあることは周知の事実であり,設計意図や部材接合方法とその詳細等をお互いに確認して納得し,共有して鉄骨製作を進めるべきところが必ずしもスムーズであるとは言えないのが現状ではないでしょうか。
鉄骨工事の品質確保の基本的条件とも言える一連の滑らかな工事の流れを阻害するこれらの隙間の原因として,設計事務所,元請負業者,鉄骨製作工場のそれぞれの技術者同士が日ごろから直接の意見交換を経験できる場があまりなく,品質向上のための率直な検討を各技術者が立場にこだわらずに行う習慣が育っていないことが大きいように思われます。
本研究会はこのような状況を打開することを目的として,行政担当者,設計者,施工者,製作者に研究者を加えて会員とし,平成21 年(2009 年)1 月に設立された任意団体です。実務的な仕事は会員から推薦された専門委員からなる専門委員会が担っています。専門委員はいずれも各業界の第一線の技術者であって,専門委員会は「業種や役職に関係なく忌憚のない対話ができる雰囲気」を最も重視して上記の諸問題について討議しています。この「業種や役職に関係なく忌憚のない対話ができる場」で建築鉄骨の品質向上に寄与する事業を共同で進め,知識や認識の共有をはかることが本研究会の理念であります。このたびの本会Webサイトの開設によってこの理念が広く理解され,同じ理念を持つ団体が一つでも増えることがあれば望外の喜びです。